「数馬居合伝1・2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。「~居合伝1」は天寿を全うし、「~居合伝2」は令和に戻ります。

(13)ろ組の用心棒

数馬は、きょうも口入屋に足を運んだ。

「北添様、いい仕事がありますよ。これは北添様に是非にと思い、とっておきました。町火消の用心棒です」

「それは面白そうだな」

「気に入っていただけて、何よりです。しかも、いつもと違って、長いお仕事です」

口入屋がいくらピンハネしているか数馬は知らないが、良さそうな仕事である。

町火消の用心棒って… 「暴れん坊将軍」の「徳田新之助」みたいだな。と数馬は思った。徳田新之助というのは徳川吉宗が町に出るときの仮の名前である。「め組」では「新さん、新さん」と呼ばれている。ついに数馬も「新さん」になれるのだ。ちなみに今回は「ろ組」である。数馬はさっそく人形町にある「ろ組」へ行った。「ろ組」は、芝居小屋や町方役人の役宅が集まっている一帯で、人の往来が激しい。

 

数馬はろ組の暖簾をくぐり、「口入屋から紹介された北添数馬です」と声をかけた。

頭(かしら)が「おう、よくきてくれた。ともかく上がりなよ」と言った。「ろ組」の全員が揃っている。北添数馬は緊張した。

「ま、楽にして。茶でも飲みなよ」と頭が言う。頭は五十過ぎで、とても優しい感じの人であった。数馬は茶を飲んだ。

「北添君、君にやってもらいたいのは、用心棒だ。火消もいろいろあってな。用心棒を必要とするということは、まあ、いろいろあるんだ。ともかく居てくれればいいさ」

町火消の仕事は火災の消火活動だけではない。どぶさらいもするし、近所でもめ事があれば仲裁に入る。行方不明になった人も探す。「よろづ相談処」という看板を掲げて、町奉行所の補佐のようなこともしている。町民からすれば、最も頼りになる存在なのだ。

「しかし、何で自分が選ばれたか……」数馬は不思議に思った。「自分は新参者ですから……」

頭は微笑む。

「いやいや、北添君の剣の腕はなかなかのものと聞いたよ」

「ありがとうございます」頭の言葉に数馬は恐縮した。

纏(まとい)が置いてある。

「頭! 纏を持ってみたいんですが」

「ああ、いいよ。中庭でやろう」

と、中庭に降りた。

すると、頭は「ほい!」と、纏を投げてよこした。数馬はよろめきながら受け取った。

「カズさん。腰がよろけているよ、腰が。纏はこうやって振るんだ」

と、数馬が持っている纏を取り上げて、纏を持ち上げる。ちなみに纏は十五キロぐらいの重さがある。こんなのを持って屋根の上で振るのだから、すごいなと思う。

頭が、「ちょっと、剣の腕を見せてよ」という。頭の女房おきちも「是非見たいわ」と。若い衆も激しくうなずいている。

そこへ半鐘(はんしょう)が鳴った。

半鐘の鳴らし方は「・・・ ・・・ ・・・」である。「・・・・・・・・」と連打してしまうと腕が疲れてしまい、鳴らせなくなる。高いところにあるので、すぐに交代とはいかない。(※筆者の見解です…)

頭が「ほら、半鐘だ、行くぞ!」

若い衆が「応!」と、纏やら火消道具を持って飛び出して行った。ちなみに龍吐水(りゅうどすい・消防用ポンプ)は、使うが、あまり役立たない。周囲の家屋を壊すほうが延焼を防げる。延焼を防ぐための火除地(ひよけち)として設けられたのが「広小路」である。上野広小路が有名だ。

火災はそれほど大したことはなかったようで、一時(いっとき・約二時間)で、頭以下、若い衆も戻ってきた。

 

頭も若い衆も「さっきの続き! 剣の腕前!!」と言う。中庭で居合を披露することにした。

奥伝の立業を五本やる。「行連」「連達」「惣捲」「総留」「受流」である。

頭が「お~ いいねえ。これは頼もしい。口入屋もいい人を紹介してくれた。今度、花見をするから、是非、また見せてよ、カズさん!」

若い衆の一人が、「ずっと居てくださいよ」と言う。おきちはその間、料理をしていたようで、「ほら、みんな、お食べ! 北添さんもどうぞ!」と、夕食にありつけた。

ちなみに今回の仕事は泊まり込みではなく、通いである。三か月の予定である。

 

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