「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

(58)親友の死

北添数馬は、鶴見源之丞の同心組屋敷を訪ねた。数日前に会っているのだが、体調が悪そうであった。心配である。同心仲間も心配して、交代で鶴見のところへ行っている。 「鶴見さーん、北添でーす」「どうぞ……」鶴見は部屋で寝ていた。数馬は鶴見に聞いた。「…

(57)線香花火大会

北添数馬は、道場の門弟たちに提案した。「花火大会をしないか? 線香花火で」一昨年に大川の花火を見に行ったら、門弟たちは線香花火を始めたのだ。それは、そ知らぬふりをしていたが……それなら、線香花火を道場の庭で楽しもうと。「先生、ありがとうござい…

(56)対決!

近所に弓術場ができた。お試しとして、誰でも矢を放っていいとのこと。道具は弓術場で揃えてある。同心の鶴見源之丞が「弓術対決をしないか?」と誘ってきた。「もちろんやります」と、数馬は応じる。北添数馬は一回だけやったことがある。鶴見はやったこと…

(55)滝行

門弟が「先生、滝行をしましょうよ」と言う。数馬は内心、嫌だなと思ったが、門弟たちが盛り上がっているので、仕方なく出かけることにした。場所は王子の「名主(なぬし)の滝」である。 「やっぱり冷たい! こういうのを“年寄りの冷や水”って言うんだよ。…

(54)山田浅右衛門

山田浅右衛門(やまだあさえもん)は、居酒屋でひとり一杯やっていた。浅右衛門は「御様御用」(おためしごよう)といい、刀剣の試し斬り役を務めている。死刑執行人も兼ねているため、首切り浅右衛門、人斬り浅右衛門とも呼ばれていた。れっきとした役職に…

(53)月代(さかやき)を触りたい!

若い門弟が「先生、月代を触らせてください」と言う。「いいですが、何で?」「一度、触ってみたかったんです」「私の頭を?」門弟がうなずく。「どうぞ」と、数馬は頭を差し出す。「失礼します」と、言ってから門弟が月代の部分をなでた。「ああ……これが先…

(52)稽古、休憩中

普段、道場の掃除は門弟たちがやっているところがほとんどである。数馬は考え方が違う。師範がきちんと掃除して、きれいな道場で門弟たちを迎え、稽古に励んでほしいのである。終わりに掃除はしない。袴が床を擦ってきれいになっているから…皆に「帰宅したら…

(51)柳生の里

北添数馬と数馬の門弟、住吉大作は、胃腸薬の陀羅尼助(だらにすけ)を入手し、江戸へ向かっていた。奈良まで来たときだった。数馬は思いついた。「住吉さん、柳生(やぎゅう)に寄っていきましょうよ。笠置(かさぎ)に出れば、亀山へ向かう道に出るはずで…

(50)陀羅尼助(だらにすけ)を求めて

今回の旅の目的地は…「大和国吉野郡天川(てんかわ)郷洞川(どろがわ)村 吉野勝造商店」大和国(奈良県)の真ん中あたりの山奥にある村である。 陀羅尼助(だらにすけ)という胃腸薬を友達に貰ったのだが、これが効いた。どこで売っているのか聞いたが、友…

(49)天ぷら

江戸時代の天ぷらは屋台で食べるものが主流だった。火災防止のために、天ぷら屋は屋内での営業を禁止されていた。 さて、今日も稽古が終わった。稽古が終わる頃になると、天ぷら屋の屋台がやってくる。門弟たちがそれに群がる。「それがしは稽古で腹を減らし…

(48)切腹志願

道場でいつものように稽古をしていると、玄関から、「お頼み申ーす!」と、声が聞こえる。また道場破りか、と北添数馬は思ったが、どうやら様子が違う。 「拙者は杉木伝兵衛と申す。切腹をするので、玄関先を拝借したい!」 こういった場合、道場破りと同じ…

(47)女大学の講師

女大学とは… 男性は藩校や昌平坂学問所など、学ぶ機会が開けているが、女性はそうではない。そこで誕生したのが、私設の「女大学」である。女性の学び舎である。令和でいう「大学」ではない。 口入屋の紹介があった。「教授の都合で半時(はんとき・一時間)…

(46)くず餅と川崎大師

門弟の住吉大作が川崎大師に行ったそうで、「これ、お土産です」と、くず餅を買ってきてくれた。さっそく数馬は、台所で人数分に切り分け、特製の黒蜜をかけてきな粉をまぶした。 くず餅自体はこれといった味はしないのだが、黒蜜ときな粉で食べると、美味し…

(45)湊の文七(筆者の先祖物語)

上総(かずさ)の天羽(あまは)郡湊村に、文七という岡っ引がいる。湊村は江戸湾の漁村で、海苔(のり)の養殖が盛んである。平穏無事に漁業ができるのも、文七親分の努力によるもの、といって過言ではない。 じつは、文七親分、数馬の先祖である。北添家で…

(44)北添道場 体験入門

同心の鶴見源之丞が居合の体験をしたいという。「鶴見さん、よく来てくださいました。ささ!」と、北添数馬は鶴見を道場の中へ案内する。「あ、お花見のときにいらした鶴見さんですね!」「鶴見さん、道場へようこそ!」「居合の世界を堪能してください!」…

(43)花見

今年も桜が満開になった。北添数馬は道場の門弟たちと飛鳥山へ花見に行くことになった。食べるものと酒は各自が持ち寄る。今回は同心の鶴見源之丞もさそった。 「こちらの同心、初めての者もおるので紹介します。鶴見源之丞さんだ。南町で筆頭同心をやってお…

(42)大雪

江戸は大雪に見舞われた。北添数馬は長屋の住民と雪かきをして、北添道場の雪かきをした。そして、「今日はどうせ誰も来ないだろう」と、一人で居合の稽古をしていた。屋根から雪がドサドサッと落ちる。江戸時代は「小氷期」といって、寒冷な時期であった。 …

(41)門弟の腹痛が…

門弟の住吉大作が、居合の稽古前になるとお腹を下すという。「先生、私は稽古が嫌いというわけではありませんし、先生も信頼しています。でもなぜか稽古前になると下痢します」住吉は深刻そうに話した。「よく打ち明けてくれました。それは私が居合の初心者…

(40)剣術指南役を断る

北添数馬は高崎に所用があって、中山道を北上していた。鴻巣(こうのす)宿を出たところである。歩いていると、反対側から武士がやってきた。数馬より五歳ほど年上で、背丈は数馬と同じぐらいだが、大きな身体である。目付きが鋭い。「おう」と、武士が声を…

(39)暴れ医者、菊川源十郎

菊川源十郎は「暴れ医者」として、表ではなく、裏の世界で知られている。表向きは蘭方医をしているが、裏の世界ではびこる悪党をメスで成敗する。それゆえ、裏の世界では恐れられていた。また、医者としての腕は超一流であり、命が助からないと言われていた…

(38)暗闇

江戸の夜は漆黒の闇である。「提灯があるではないか」と思われるだろうが、実に頼りない。提灯の灯りは、そこに人がいる、という知らせのようなもので、道を照らすことには程遠いものだ。「無いよりまし」という程度である。北添数馬は、普段は夜道を歩かな…