「ねえ、服部(はっとり)さん。忍術を教えてくださいよ~」
「ダメでござる」
「そこを何とか」
「ダメでござる」
「ちょっとだけ」
「ダメでござる!」
北添数馬が服部竹蔵に出会ったのは、麹町(こうじまち)にある「からくり忍者屋敷」である。忍者の見世物小屋である。そこの座長が伊賀の服部竹蔵だったのだ。
数馬は忍者に憧れていた。しかし、忍術の修行は並大抵のことではないと知っていた。そこで、服部竹蔵から忍術を伝授してもらおうと考えていたのである。
服部は五十歳くらいの男性だった。色白でほっそりとした体つきをしている。
「北添うじ、忍者になりたいと申されるが、命の危険もあるのでござるよ」
「かまいません。それに、忍術を会得できれば服部さんに恩返しもできると思います。ぜひ、お教えください」
数馬は真剣な表情で言った。
「そうでござるか……。北添うじがそこまで言われるのであれば、拙者も無下にはできぬでござるな」
こうして、数馬は服部竹蔵から忍術を教わることになったのである。
しかし、服部は忍術を教えることを渋っていた。
「服部さん、拙者に忍術を教えてくだされ」
数馬は頭を下げた。すると、服部竹蔵はため息をついた。
「北添うじの熱意には負けたでござる。しかし、本当に厳しい修行になるでござるよ。それでも良いのでござるか?」
「かまいません」
数馬は力強くうなずいた。
こうして、数馬と服部の修行が始まったのである。
それから、数馬は服部竹蔵から忍術を教わる日々が続いた。
服部は厳しい修行を課した。数馬が根を上げそうになると、服部は励ましの言葉をかけた。
「北添うじ、もう少しの辛抱でござる」
そして、数ヶ月が過ぎた頃、ついに数馬は服部竹蔵から認められた。
「よくぞここまで成長したでござるな、北添うじ」
「服部さん、ありがとうございます」
「あとは修行の成果を実戦で試すだけでござるよ」
「はい!」
こうして、数馬は服部竹蔵から一つの忍術を学び終えたのである。
数馬は服部竹蔵に感謝の言葉を述べた。
「服部さん、本当にありがとうございました」
「北添うじが頑張ったおかげでござるよ」
そして、服部竹蔵は次の興行先である尾張(おわり)へ旅立った。
「北添うじも頑張ってくだされ」
「はい!」
数馬は笑顔で答えた。