「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

2024-01-01から1年間の記事一覧

(38)暗闇

江戸の夜は漆黒の闇である。「提灯があるではないか」と思われるだろうが、実に頼りない。提灯の灯りは、そこに人がいる、という知らせのようなもので、道を照らすことには程遠いものだ。「無いよりまし」という程度である。北添数馬は、普段は夜道を歩かな…

(37)伊賀忍者、服部竹蔵

「ねえ、服部(はっとり)さん。忍術を教えてくださいよ~」 「ダメでござる」 「そこを何とか」 「ダメでござる」 「ちょっとだけ」 「ダメでござる!」 北添数馬が服部竹蔵に出会ったのは、麹町(こうじまち)にある「からくり忍者屋敷」である。忍者の見…

(36)甲賀忍者、煙巻半助

煙巻半助(けむまきはんすけ)は甲賀の忍者である。甲賀は、伊賀と並び称される忍者集団であるが、その性格は正反対である。伊賀は「個」を大切にするのに対し、甲賀は「組織」を重んじ、徹底してそれを守ることに長けている。そのためか、甲賀の忍びは金銭…

(35)北風の紋三郎

北風の紋三郎は、上州無宿の侠客である。一膳飯屋でガツガツと食事をしている。とろろ芋をご飯にかけ、メザシを放り込み、かき混ぜる。早飯である。侠客は命を狙われるので、そういう食べ方をしているようだ。 「ところで、旦那……」紋三郎に声をかけたのは、…

GWはお休みします&予定

ブログをお読みいただき、ありがとうございます。GWはお休みします。4月27日(土)~5月6日(月) 今後の掲載予定は以下のとおりですが、話数が増えるかもしれません。 4/24(35)北風の紋三郎4/25(36)甲賀忍者、煙巻半助4/26(37)伊賀忍者、服部竹蔵5/7…

(34)居合の道場です。

『~居合伝』という題なのに、肝心の居合が全然出てこない… ということで、普段の稽古の様子を少し…… まず、夢想神伝流の「初発刀(しょはっとう」を、これは毎回最初にやる。正座した状態から、相手のこめかみに抜き付け、さらに真っ向から斬り下ろす。とい…

(33)続・お化け屋敷

両国のお化け屋敷で、不可解な事件が起きているという。女性四人でお化け屋敷に行って、出てきたら、三人しかいないという。似たようなことが、三回起きているという。行方不明事件である。奉行所に届け出があったとのことで、鶴見源之丞が数馬に話を持って…

(32)お化け屋敷

両国(りょうごく)にお化け屋敷があるという。北添道場の門弟が、「先生、一緒に行きましょうよ」と誘ってきた。数馬は、お化けとか幽霊といった類は苦手である。たとえ作り物といえ、好き好んで見る人など、いないであろう。「♪おばけなんてないさ、おばけ…

(31)みかん

北添数馬は風邪をひいて、自宅の長屋で寝込んでいる。同心の鶴見源之丞がお見舞いに来てくれた。「北添さん、大丈夫かい」と、みかんを十個持ってきてくれた。偶然かもしれないが、みかんは風邪に効くのである。みかんに含まれるビタミンAは、鼻や喉の粘膜を…

(30)浦和散策

北添道場の門弟から提案があった。「見沼通船堀を見たいです」と。何処からそういう情報を仕入れてくるのか分からないが、数馬は「ついでに鰻を食べて、サクラソウ(桜草)を見ましょう」と提案した。浦和とはこれまた懐かしい。数馬は小・中学生時代、浦和…

(29)御小人目付の苦悩

今年もお盆がやってきた。といっても、数馬は帰る故郷が令和であるし、お盆だからといって、特に何があるわけではない。ということで、道場で稽古をしている。門弟の御小人目付(おこびとめつけ)の真鍋平九郎が道場にやってきた。彼にもお盆はないようであ…

(28)鶴見の同心組屋敷

北添数馬は、鶴見源之丞の同心組屋敷に遊びに行った。いちど来てくださいと誘われていた。八丁堀である。鶴見の屋敷を訪ねると、「やあやあ、どうも、北添さん」と、鶴見が出てきた。鶴見の部屋は、読書が趣味だと言っていたとおり、本が多い。読み散らかし…

(27)捕り物

同心の鶴見源之丞が、北添数馬の長屋へ慌ててやってきた。「捕り物があります。ぜひ体験してください」「そんなの、体験できるの?」「お奉行の許可をもらっていますから。一時(いっとき・二時間)ほど経ったら奉行所に来てください」 南町奉行所に出向く。…

(26)秩父の十臓一味

北添数馬は秩父(ちちぶ)に所用があって出かけた。帰りに正丸(しょうまる)峠にさしかかると…「そこのけ! そこなお人!」と、声をかけながら駕籠や馬上の武士たちが数馬の前を駆け抜けて行く。「何事じゃ?」数馬は、思わず道端へ寄った。「御用だッ」飛…

(25)西新井大師と草加せんべい

北添道場の門弟が、「西新井(にしあらい)大師に詣でて、草加(そうか)せんべいを食べませんか」と、提案してきた。数馬にとってはとても懐かしい。まだ幼稚園の頃、西新井の団地に住んでいたのだ。休日になると、父が西新井大師に連れていってくれた。 今…

(24)二人とも暇です。

かごめ かごめかごのなかのとりはいついつでやるよあけのばんにつるとかめがすべったうしろのしょうめんだーれ 北添数馬が長屋で金魚鉢を眺めていると、外で遊んでいる子供たちが歌うのが聞こえてくる。いつも同じなので、歌詞を覚えた。「いついつでやる」…

(23)安政遠足(あんせいとおあし)

北添道場の門弟が、これは鍛錬になると、情報を持ってきた。上州の安中(あんなか)藩がやっている、「安政遠足」である。“遠足”とは、「とおあし」と読み、令和で言う「マラソン」のことである。 「この遠足(とおあし)は安中藩士がやるんじゃないの?」「…

(22)愛宕神社の石段

北添道場の門弟から提案があった。「愛宕(あたご)神社の石段を上りませんか。足腰の鍛錬になると思います」 というわけで、門弟の参加者は半分だが、出かけることにした。愛宕神社は「桜田門外の変」で水戸浪士らが集結した場所である。愛宕山の山頂にある…

(21)餅つき

北添道場では新年になったら「餅つき」をやる。そして頑張った門弟を一人選んで、刀の手入れ用具を授与する。餅つきの道具は数馬が古道具屋で購入した。あらかじめ門弟たちには各自一合の餅米を持ってきてもらい、数馬が準備する。そして、門弟たちに餅をつ…

(20)鶴見源之丞の恋

同心の鶴見源之丞。独身である。数馬は令和に妻子がいるが、江戸時代では独身みたいなものである。その鶴見が数馬に、 「女が喜びそうなものは何でしょうね」 と聞いてきた。どうやら彼女がいるようだ。 「簪(かんざし)を差し上げるというのはいかがでしょ…

(19)「暇乞(いとまごい)」

同心の鶴見源之丞が遊びに来た。数馬が飼っている金魚が気に入ったらしく、エサを与えていいか、聞く。きょうはまだ与えていないので、「いいですよ」と答え、鶴見にエサを渡す。エサを与えると、金魚やタナゴ、クチボソが寄ってくる。テナガエビだけ、面白…

(18)犬の散歩

口入屋の紹介で、犬の散歩である。北添数馬は大の犬嫌いである。それは犬にも伝わるようで、よく吠えられる。鉄道紀行作家の故・宮脇俊三氏もそうである。もちろん、犬の散歩など、やったことがない。 預かった犬は、秋田犬の仔犬である。仔犬だから元気がい…

(17)墓参のお供

口入屋の主人に仕事がないか聞いた。「北添様、墓参のお供なるものがあります。いかがでしょう?」「何ですかそれは?」「これは女性(にょしょう)の依頼で、つまり用心棒です」「なるほどな。何処へ行くのかな?」「小石川の伝通院です」 ということで、ま…

(16)金魚になりたい

北添数馬は淡水魚が好きである。いま、金魚を飼っている。金魚だけでは寂しいので、ちょっと離れたところにある沼で釣りをすることにした。クチボソ・タナゴ・テナガエビ・ニホンザリガニ、などなど。ザリガニは体が大きいので、放した。 さて、クチボソ・タ…

(15)向日葵(ひまわり)と赤トンボ

北添道場の中庭には向日葵が咲いている。数馬が毎日、井戸から水を汲んできて、向日葵に水をやっている。向日葵に水を与えたあと、数馬は正座をして刀の手入れを始めた。ぽんぽん(打ち粉)を使って紙で拭い、丁子油をすーっと塗っていく。刀身をごしごしや…

(14)ものもらい

今年も暑い夏がやってきた。令和では当たり前のように35℃以上の「猛暑日」が連続するが、江戸時代、猛暑日というのは珍しかった。ただ、暑いことには変わりなく、すだれと打ち水が効果的であった。あと風鈴。 北添道場も暑い。武道館にあるような巨大扇風…

(13)道場破り

北添道場で居合の稽古をしていると……「師範はおらぬか。拙者、井上源左衛門。師範と立ち会いたい!」と、玄関から声がする。こういった場合、ちょっと金子(きんす)を包んで、お引き取り願う。浪人もそれを狙っている。お小遣い稼ぎだ。「この道場の師範の…

(12)お白州

人材派遣会社の使い方であるが… 持てる経験、技術は全て伝えること。そして担当者には丁寧に接することだ。仕事をくれないからといって凄んではいけない。そういう人物は派遣して問題ないか、担当者にも分かるだろう。「いま、別の方と話が進んでおりまして…

(11)赤穂浪士の縁者

北添数馬は赤穂浪士が大好きだ。いやいや、悪いのは浅野内匠頭で、吉良上野介は被害者じゃないかと思うが、やっぱり赤穂浪士が好きである。 泉岳寺へひとりで行った。道場の門弟たちと師走の十四日に行ったことがあるが、大混雑していて、あまり落ち着かなか…

予定です。

予定です。日曜日より「(11)赤穂浪士の縁者」から再開します。「★」は、UP済みなのですが、編集の都合で、もう一度アップします(すみません)。どうぞ宜しくお願いします。 北添数馬 ※予定です。話数は増えるかもしれません。 (1)山岡鉄舟に居合を教わる(2)…