「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(16)毒見役

数馬は中学生の頃、淡水魚を飼っていた。金魚はもちろんなのだが、タナゴやクチボソ、テナガエビも一緒だ。ある日、ブラックバスを釣ってきて、その水槽に入れたら、テナガエビはもちろんのこと、魚が激減…

金魚の飼育は武士の副業であったという。いいですね。自分が育てたのが売れれば。
江戸時代には金魚は縁起物とされ、金運や商売繁盛の効果があるとされていたらしい。侍が育てている金魚たちのなかにはデブデブになって長生きしなさそうなのもいるが、あれはきちんとした餌を与えられていないか、「さっさと死ね」というメッセージかもしれない。
そこで数馬の出番である。
「餌を与えすぎですね。金魚はかなり小食です。タナゴも一緒ですが…」
「そうなんか。こんなにでぶってるのに」
「餌は一日二回、一つまみだけ与えてください。そのほうが金魚も健康に育ちます」
数馬は偉そうに指導をする。数馬はそれを日々実践していたのだから説得力がある。餌のやりすぎは水を汚す原因ともなる。刀を手入れするように、金魚も繊細なのである。メダカもそうだ。数馬は小学校の時、メダカの飼育係をしていた。勝手に餌を与えられ、水面が餌で覆われ… 朝の会、帰りの会で、クラス全員に、「メダカに餌を与えないように」と、ことある度に言っていた。

なぜ武士の副業が金魚なのだろうか。
金魚屋は儲かるのである。多くの人が江戸時代に金魚を飼っていたことは間違いないようで、たとえば『江戸砂子』(※ 江戸の地誌。享保十七年刊)には「金魚売」という商売についての記述がある(令和は金魚を売る屋台は営業許可が必要らしい)。なんでもこの屋台では二朱(令和のお金で千円ほど)で金魚を売っていたそうである。
「一匹二朱というのは、ちと高いんじゃないかのう」
「だから人気があったんですよ」
「なんでだ?」
「客は金魚がほしいわけじゃなくて、金魚売りと会話をするのが目的だったんです。だから二朱というのは手頃だったんですよ」
数馬はどうやら知識をひけらかすタイプの男である(※もちろん自分では気づいていない)。武士のくせに生意気だな、と思うかもしれないが、当時の武士は外での娯楽が少ないから読書ぐらいしかやることがなかったのだろう。

話を転じて、金魚の役割である。
「毒味役」といえば、映画「武士の一分」(主演:木村拓哉)が有名だ。赤つぶ貝の貝毒で失明してしまう。
時代劇だと、毒見役は「金魚」である。映像のなかに金魚鉢があったら、ほぼ間違いなく、金魚鉢に何かが投入され、金魚が死滅し、「毒だ!」となる。時代劇では「金魚」はなくてはならないものであった。
江戸時代に金魚屋が繁盛したのは、毒見役としての役割も大きかったのではないだろうか。誰かが死んだら「あ! 金魚屋のあの客が死んでる!」となって、大騒ぎになるのではないか。そういうイメージで、「金魚売」の屋台は人気を博したのだろう。

江戸時代に来た数馬は、当初はかなり狼狽したが、実は暇を持て余している。
「金魚を飼おうかな~」
とも思っているのだが、金魚の飼育というのはけっこう手間が掛かるのだ。まあ、それはまた今度の機会に。

金魚