「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(5)二本差しが怖くて田楽が食えるか!!

「二本差しが怖くて田楽が食えるか!」

北添数馬に向かって、町人が啖呵を切った。
二本差しとは侍のことである。
間の悪いことに、数馬は小料理屋で田楽を食べていた。
この「啖呵」は、何も田楽を食べているときに使うわけではない。
「二本差しが怖くて 田楽がくえるけぇ
  気の利いたうなぎなら 三本も四本も差してらぁ!」と、続きがある。

町人はかなり飲んでいて、足元が覚束ない。
「武士を愚弄するとは許せん」
「なんだあ? やろうってのか?」
「やるか?」
数馬が立ち上がったときである。その町人は座ったかと思うと、寝込んでしまった。
「どうした?」
数馬が声をかけたが、町人は気持ちよさそうに寝息を立てている。
「どうも寝ちまったようだ」
数馬は勘定を済ませ、その場を立ち去った。酔い潰れた町人をそのままにしておくのは気がかりだったが、数馬は家路についた。

翌日…
その町人が数馬の長屋へやってきた。場所は小料理屋の女将から聞いたようである。
「昨日の酔いつぶれた方ですな」
「はい、お武家様。六助と申します。酔った勢いとはいえ、すみませんでした」
六助は素直に頭を下げた。
「それで、私に何用で?」
「はい。お武家様は二本差しと田楽のどちらを大事にしておいでですか?」
数馬は考えたが……
「どちらも大事ですな」
「やはりそうですか……」
「田楽を食うのも二本差しの武士ゆえ。二本差しを怠れば、ただの田楽食いです」
「なるほど……」
「六助殿、一本差しでいるためには日々の精進が必要ですぞ」
「はい、お武家様。肝に銘じておきます」

そして、また翌日……
六助が再びやってきた。今度は数馬から声をかける。
「六助殿、昨日お渡しできなかったものがあるのだが……」
数馬は例の小料理屋の御主人からもらった味噌を六助に手渡した。
「これは?」
「例の小料理屋の味噌です。その御主人が作る味噌は絶品で、私も気に入っております」
「ありがとうございます。大事にいただきます」

そして、また翌日……
六助が再びやってきた。
今度は田楽を数馬に手渡す。「お口に合うかわかりませんが……」
「これは?」
「小料理屋の御主人に田楽をお作りいただいて、わたしが味噌で味付けしてみました」
数馬は一口食べた。そして、また一言。
「美味ですな」
「ありがとうございます。お口に合って幸いです」
六助は帰っていった。

そして、翌日……
六助が再びやってきた。今度は酒と田楽を数馬に渡す。
「これは?」
「小料理屋の御主人にお願いして作っていただきました」
数馬は礼を言って受け取ることにしたが、正直ありがた迷惑な気がした。しかし、この六助という町人は、昨日の味噌の件といい、とても律儀な男である。

「六助さん、もう二本差しは怖くないでしょう。田楽を一緒にいかがですか?」

六助は田楽を見て、嬉しそうに頷いた。

田楽