スイカと天ぷらは食べ合わせが悪いことで有名だ。
北添数馬は高校生のとき、かき揚げ丼を食べた後にスイカを食べて、猛烈に腹を壊した。
北添道場の門弟がスイカを持ってきてくれた。
みんなで食べようということになり、三個貰っているのだが、とりあえず一個を人数分、数馬は台所で切った。
甘くて美味しい。門弟もみな、美味しそうに食べている。
しかし数馬はうっかりしていた。天ぷら蕎麦を食べたばかりなのだ。
いやな予感が的中した。
半時(はんとき・一時間)が経過した頃だろうか、猛烈にお腹が痛くなってきた。
厠に駆け込む。
用を足して少ししか経っていないのに、また厠に行きたくなる。
用を足しては、また行きたくなるの繰り返しだ。袴をはいている余裕はない。
その様子はかなり滑稽なようで、門弟は笑いをこらえている。
ついに数馬は観念して、下帯だけで道場に居ることにした。隠すべきモノは隠してあるからいいだろう。
笑いをこらえていた門弟たちは、大爆笑だ。
「先生、大丈夫ですか!(笑)」
「薬をもらって来ましょうか(笑)」
「先生、お大事にしてください(笑)」
その発言が、さらに笑いに拍車をかけている。みな、腹をかかえて笑っている。
数馬「このとおりだから、今日はもう稽古ができません。帰ってもよし、各自で稽古をするのもよしです。あ! 厠!」
門弟のひとりが、自宅から腹薬を持ってきてくれた。
「先生、これ、効きますから」
「うん、ありがとう」
薬が効いたのか、ようやく落ち着いてきた。
「みんなもスイカと天ぷらは気を付けるように!」
残り二個のスイカは、また明日にでも、門弟たちに分けてしまおう。
スイカは当分いいと思った数馬であった。