「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(7)銭形平次の子分

銭形平次といえば「岡っ引のアイドル」である。その子分は八五郎
その八五郎が足を骨折してしまい、当分、動けないとのこと。
“同心体験”で世話になっている、鶴見源之丞から、「銭形平次の子分をやってみませんか?」と打診があった。岡っ引の子分を「下っ引」という。
上下関係はこんな感じである。

与力-同心-岡っ引-下っ引

さて、平次親分のいる神田明神下へ向かう。数馬の緊張は頂点に達した。
八丁堀の“女湯”も緊張したが、別種の緊張である。

平次の住まいに着いた。
「ごめんください。同心の鶴見さんから紹介いただいた、北添数馬と申します」
「これはこれは。おあがりなさい」
女房の「お静」が一緒だ。
「八(はち・八五郎)が怪我してしまって、怪我が治るまで代わりの子分を探していたんだ。来てくれてありがとう」
話を聞いていると、捕物をするのは稀で、見回りが主な任務とのこと。テレビで観ていると、毎回捕物騒ぎだが、実際の江戸は平和で、秩序が保たれている。刀を生涯抜いたことがない侍もいるという。数馬はある外国人の紀行書を読んだことがあるが「江戸はきれいで、人々も礼儀正しい。いい人ばかりだ」とあったように思う。

数馬は平次に頼んでみた。
「平次親分! ほら、銭を投げるでしょう。投げ方を教えてもらえますか?」
そう、やたらめったらに投げるものではないのは数馬も承知しているが、興味がある。
「まあ、いいさ。教えてやるよ」
数馬は平次親分から、投げ方を教わった。平次は何度もお手本を示してくれたが、かなり難しそうだ。
数馬の足元に銭を投げてきた。それを右手で素早く拾って渡す。お手本は完璧だった。だが数馬がやってみると難しい。やっとのことで拾った銭を渡そうとしたが……落としてしまった。
「難しいですね……」
数馬は平次に銭を拾うのを手伝ってもらい、またチャレンジ。やっとのことで出来るようになった。
「ありがとうございました!」
「ああ。それにしてもあんた、器用だな」

平次が見回りに行くというのでついて行く。「俺は捕物するときは銭を投げる。しかし、投げて落とすのではなく、その銭で相手を捕える。北添どのの投げ方とは意味が違うのさ」
そういいながら見回りをする平次親分についていった。平次は道々、数馬にいろいろ教えてくれた。
「北添さんよ。八五郎が治るまでの辛抱だ。辛抱してくれよ」
「はい!」
「ところであんた、剣術を習っているかい?」
「居合を少々」
「それは頼もしいな。やってみせてくれないか?」
「いいですとも。見回りが終わったらやってみましょう」
刀は平次の住まいに預けてある。
そうこうしているうちに、見回りは終わったようだ。平次の住まいに戻った。
居合は立ち技を五本やった。
「やっぱりやるなぁ! 北添さんよ」と平次。
「ところで……もう夕暮れだ。夕飯を一緒にどうだ? お静に用意させているんだが……」
そしてお静がお手製の膳を運んでくる。豆腐の味噌汁に、ぬか漬け、卵焼き……なんと豪華絢爛! お味のほうは? 数馬は夢中で食べてしまった。

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