「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(8)大けがと労咳

“同心体験”で世話になっている、鶴見源之丞から、居合を見せて欲しいと言われた。
鶴見が住んでいる八丁堀の同心組屋敷に行った。
部屋の中なので、全剣連居合の座り技、四本をやることにした。
「柄当て」という技をやったときである。後ろの敵の水月を突くのだが…… 数馬は自分の左腕を突いてしまった。
出血がおびただしい。
「鶴見さん、すみません、部屋を汚してしまって」
「それより、早く、医者に!」
近くの蘭方医に行き、左腕を十針ほど縫った。小石川養生所へ行きたかったが、八丁堀からは遠い。
居合は手順・やり方を間違えなければ、怪我をすることはない。
納刀をするときによく怪我をすることがあるが、何かが間違っているのである。
とある高校の剣道部で、顧問の居合道六段の先生が、誤って生徒を刺して怪我を負わせたという事故があった。高段者でもこういう事故があるから、段位が高いからといって、決して油断はできないのである。

「北添さん、私が居合を見たいと言わなければ」
「いえいえ、自分が未熟なのです。初心者の頃は、こんな怪我をしたことはありませんでした。漫然とやっていたのが悪いのでしょう」

それにしても傷口が痛む。医者から処方された痛み止めを飲む。

その夜、左腕が痺れてきた。高熱が出た。
翌朝、また医者に診てもらった。
「先生、傷口も縫いましたし、薬を塗ったりもしました。薬も飲みました。なぜ熱が下がらぬのですか」
「北添さん、あなたは労咳(ろうがい)だ」
「えっ、労咳?」
労咳とは、結核である。令和では治療薬があるが、江戸時代は不治の病であった。
「北添さん、咳はでるかね?」
「はい、ときおり」
「血を吐いたことがあるかね?」
「それはないです」
「それなら安静に養生をしていれば、寿命を延ばせるであろう」
新選組沖田総司池田屋事件で血を吐くが、血を吐くようになると相当悪いそうだ。

「医者としては、なすすべがない。熱が出たら熱冷ましの薬を処方するとか、そういったことしかできない」

数馬は一週間ほど、寝ていた。
体が軽くなった気がする。左腕の傷も痛まなくなってきた。
ただ、労咳だけは何ともできない…… さてどうなる?北添数馬!