「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(12)お白州

人材派遣会社の使い方であるが… 持てる経験、技術は全て伝えること。そして担当者には丁寧に接することだ。仕事をくれないからといって凄んではいけない。そういう人物は派遣して問題ないか、担当者にも分かるだろう。「いま、別の方と話が進んでおりまして」と、体よく断られる。
江戸時代、その役割は「口入屋(くちいれや)」である。口入屋の主人とはこまめに連絡をとり、礼儀正しくする。無礼なごろつきみたいな輩を派遣してしまっては、取引先からクレームになるし、口入屋の信頼もなくなってしまう。

北添数馬は口入屋の主人と仲がいい。主人も数馬のことをよく知っているから、顔を出せば仕事を提案・紹介してくれる。

数馬は今日も口入屋に行った。主人は「北添様、この仕事はどうですか? 南町奉行所のお白州の祐筆(ゆうひつ)係」
「そんな案件があるのか!」
「はい、どうしても必要なのだそうです」
「素人に務まるものなのか?」
「言っていることを書けばよいそうですから」

数馬は南町奉行所に出向き、門番に名前を告げた。
“同心体験”で世話になっている鶴見源之丞が出てきた。
「北添さん、本日はありがとうございます。本日は体験ではなく、正式な仕事なので、口入屋を通して、仕事を依頼しました」
数馬は、「そうだったのか!」と思った。

部屋に通され、待機する。やがて、奉行が直々にやってきた。
南町奉行の大岡清左衛門と申す」
「北添数馬と申します」
「これから白州を開く。祐筆が一人足りなかったのだ。宜しく頼む」

さあ、お白州だ。
取り扱う事件は……
大八車で人を大けがさせた件。令和でいえば交通事故である。

末吉という町人がお白州に座る。
役人が揃い、奉行が登場する。時代劇でお馴染みのシーンだ。

「末吉、そのほう、不注意で、大八車で大けがをさせたこと、相違ないか」
「はい、相違ございません」
「大八車で、どのように怪我をさせた?」
「はい、坂道に停めておいたら、勝手に動きだしてしまい、通行人にぶつかってしまいました」
「充分不届きである!」
数馬は筆記する。
怪我をした、卯之吉が呼ばれる。
「卯之吉。そのほう、怪我で仕事ができなかった日はどのくらいだ?」
「ひと月です」
「末吉。卯之吉が働けなかった、ひと月分の賃金を払いなさい。そして五十叩きを申し渡す」
「ははっ」と、末吉。
数馬が書いたのは、これだけである。
簡単な案件だったから呼ばれたのかもしれない。
鶴見に仕事が終わったことを報告した。
「また仕事があったら頼みますよ。今宵は一杯飲みませんか?」と、誘ってくれた。

お白州