「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(27)捕り物

同心の鶴見源之丞が、北添数馬の長屋へ慌ててやってきた。
「捕り物があります。ぜひ体験してください」
「そんなの、体験できるの?」
「お奉行の許可をもらっていますから。一時(いっとき・二時間)ほど経ったら奉行所に来てください」

南町奉行所に出向く。鶴見が出迎えてくれ、身支度をしてください、とのこと。
同心の羽織を着て、鉢巻、襷。刀は、刃引きをしてある刀に交換した。縄と十手を渡された。
「私の指示どおりに動いてください」と鶴見。いつになくピリピリしている。
「これから茅場町(かやばちょう)にある、盗人宿に行きます。まずはその盗人宿を監視します」と鶴見。
同心が三十人ほど集まった。「打合せどおり、それぞれ持ち場についてください」と鶴見が指示する。筆頭同心の手腕を発揮する。

盗人宿の斜め向かいの居酒屋の二階を借りた。そこから盗人宿を鶴見と監視する。
なかなか人の出入りがない。時間ばかりが経過していく。
監視を始めた二時(ふたとき・四時間)後、ようやく動きが現れた。
盗人宿に男が入ってきた。男は何かを探している様子で、あたりをキョロキョロと見回している。しばらく見回したあとで、二階に上がる階段に足をかける。そして階段を上がっていった。
「あれが三兵衛です」と鶴見が囁くように言う。
同心たちが一斉に立ち上がる。「北添さんは、ここから見ていてください」と、鶴見は盗人宿に走っていった。
「御用だ!」と鶴見。逃げようとした男を同心たちが取り囲む。
「放せ!」と三兵衛が叫ぶ。
「おとなしくしろ!」
三兵衛は観念し、三兵衛とその手下四人が同心たちによって縄で縛られた。
「連れていけ!」と鶴見。
男は奉行所へと連行された。
「うまくいって、よかったですね」と数馬。

三兵衛の取り調べが始まった。
数馬は鶴見と一緒に、同心たちとともに奉行所の一室に入った。縄で縛られた三兵衛が座っている。
「なぜ、盗みをしたのだ?」鶴見が問う。
「金がなかったからだよ」と三兵衛はふてくされている。
「金がないのに、なぜ盗人宿に?」と鶴見。
「ここで働けば金をやると言われたんだ」三兵衛はふてくされ続けている。
「では、なぜ盗みをした?」と鶴見が追及する。
「だから金がなかったからだ!」三兵衛は叫ぶように言った。そして下を向いてしまった。
しばらく沈黙が続いた。
「もうよい」鶴見が沈黙を破った。「三兵衛、家はどこだ?」
「ないよ」と三兵衛。
鶴見は三兵衛の縄を解いた。
「おまえを奉行所で働かせようと思う」と鶴見が言うと、三兵衛は驚いて顔を上げた。「どうして?」
「家もないから仕方ないではないか。奉行所では炊き出しもやっているからな」
「ありがとうございます!」と言って、三兵衛は涙を流した。


※盗人宿(ぬすびとやど)  盗人が足だまりとしたり身をひそめたりする宿や家。

捕り物のイメージ