「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(45)鉄道会社の呪いを解く

北添数馬のところへは棟上式や地鎮祭で居合をやって欲しいという依頼が舞い込むようになった。
幽霊退治をしたが、それが噂になっているようだ。「あんまり、目立ちたくなかったがな」
幽霊が出なくなった理由は3つ考えられる。
・数馬の居合が魔除けになった。
・幽霊は切腹できて満足した。
山岡鉄舟の揮毫の墓碑に満足した。
う~む。
やるときは、全剣連居合の「四方切り」一本のみである。居合を見せてくれ、ということではなく、あくまでも魔除けの意味であるから、「四方切り」一本のみでよいと考えている。

とある鉄道会社の建設現場で、奇怪なことが起きているという。
作業員が作業中に死亡するのが続出しているという。
それでなくても、鉄道は事故がつきものである。脱線したり、正面衝突したり、ブレーキが故障したり、連結器が外れて暴走したり…(『塩狩峠』が有名)
鉄道開業の明治五年十月十四日に、すでに人身事故が発生している。

鉄道会社の専務は言う。「北添さまの魔除けをひとつ、お願いできませんでしょうか」
「それならば、神社の神主にお祓いを依頼すればいいでしょう」
「実は、当社発足のときに、お祓いはすでにやっているのです」
「そうですか。私でよければ」

日を改めて鉄道会社に出向いた。「どんな、事故でしょうか」
「作業員が倒れるのです」
「それはいけません。やはり、神社にお願いしたほうがいいでしょう」
しかし、鉄道は待ったなしである。なんとか数馬の手で魔除けをしてほしいと懇願する専務。
しかたなく、鉄道工事現場に向かった。
一人の作業員が横たわっていた。顔が異様に赤く腫れている。全身から熱が出ていて、苦しそうだ。作業員は近くの病院に運ばれた。
会社上層部は、数馬を呼んで魔除けをしてもらうことを願っているようだ。
「早く、魔除けをしてください」と懇願される。
数馬は持参の刀で、「四方切り」をやった。本社の社屋でも「四方切り」をやった。

数馬は専務に、その後の様子を報告してもらえるよう、お願いした。自分のやったことで、効果があったのか知りたかったのである。

半年後と一年後、鉄道会社の専務から、数馬へ手紙が届いた。
それ以来、事故は発生していないとのこと。
そして、開業式をやるので、その時にも居合の演武をお願いしたいとのこと。

開業式の式次第はこうである。
・主催者あいさつ(鉄道会社社長)
・来賓あいさつ(渋沢栄一 浅野総一郎 安田善次郎
・帝都合唱団の合唱
・居合演武 (北添数馬)
・テープカット・くす玉割り
・記念列車出発合図(駅長)

居合は全剣連居合の「諸手突き」「三方切り」「四方切り」にした。
開業式を終えると、社長から、
「あまり御礼ができなくて申し訳ないのですが、これを差し上げます」

と、半年間有効の優待乗車券をいただいた。
社長は「持参人式なので、何度でも、どなたでもご利用いただけます」とのこと。
数馬はあまり鉄道を利用しないので、山岡鉄舟にあげようかと思っている。

その鉄道会社は後に国に買収され、国鉄からJRに変わったが、その路線だけ事故はゼロで、JR線の中でもトップ10に入る黒字路線であるという。

開業式のイメージとして