「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(35)新選組風雲録

ある日… 北添数馬が屯所で休んでいると、沖田総司が、
「北添さん、あれ見せてくださいよ、あれ!」
時代劇や時代小説など、沖田総司はやんちゃな感じで描かれているが、そのとおりであった。彼は労咳を患っている。しかし気丈に明るい。
「北添さん、居合、得意なんでしょ! いあい! 剣術師範なんですからお願いしますよ~!」
「だめですよ、沖田先生」
「そこをなんとか!」
「じゃあ、一度だけですよ」
それで数馬は総司に居合(抜刀と納刀)を見せた。沖田総司は感嘆の声を上げた。
「やっぱり! すごいなぁ! でも僕だったらもっとこう……」
沖田総司が褒めてくれたことで数馬の機嫌がよくなり、さらに居合を見せた。それは沖田総司を喜ばせた。
「ほら、こういうふうに!」
沖田総司が納刀してみせると、数馬は笑顔で言った。
「ああ、いいですね」
「そうでしょう!」
それで今度は総司が居合を見せることになった。しかしここでも総司は感激の声を上げた。
「すごい! すごいですよ、北添さん! こんなの僕、教えてもらってないですよ」
「はははは」
そんな様子をどこからともなく見ていた永倉新八がやってきた。そしてニヤニヤしながら二人に声をかけた。
「ずいぶん楽しそうじゃないの」
「あ、永倉さん! 見てください、これ!」
と総司が納刀してみせると、新八は目を見張った。
「あれっ? 今、すごく速くなかったか?」
「でしょ」
「いや、沖田先生は『いあい』と言っただけですよ」
「え? そんなんでできるのか?」
それで三人して抜刀して納刀の修行を始めた。沖田、永倉とも筋がよくて一発でうまくいった。
「これはいいなぁ」
「ええ、いいですねぇ!」
新八と総司は喜んだが、数馬は興奮している二人をなだめた。
「でもこれは二人だからできるんですよ。もう結構ですから、道場に戻って稽古を始めてください」

それから数日後、道場での稽古を終えた総司が、数馬に声をかけた。
「あのぉ、北添さん。ちょっとお願いがあるんですが……」
「なんですか?」
「以前見せてくれた居合(抜刀と納刀)を見せてほしいんです」
「だめです」
「お願いしますよ~!ねぇ北添さん!」
「……でもねぇ……まだ、沖田先生にお見せするレベルじゃないんですよ」
すると総司はにやりと笑った。
「そんなこと言わないでくださいよ、北添さん。もしできたなら、僕にも教えてもらいたいんです。お願いしますよ!」
「……」
「じゃ、道場で待ってますから」
総司が去ると、永倉新八がやってきた。
「おい! 沖田をてこずらせたらしいな」
「……え?」
「沖田は負けず嫌いだからな。それでもって刀を持たせたら目がないんだ」
と新八は言ったが、数馬は半信半疑だった。そんなときに総司がやってきた。
「あ、沖田先生」
「北添さん! 見せてくださいよ!」
「……ええ……どうぞ……」
(いやだなぁ……)
と数馬は思いながら、総司に納刀を見せた。すると総司は感激の声を上げた。
「すごいなぁ! なんでできるんです?」
そんな二人のやりとりを見て、新八はニヤニヤと笑った。
その数日後、また新八が数馬のところを訪れた。
「おい、北添! 今度は俺とやってみないか」
「……え?」
「俺は居合に自信があるんだよ。だから沖田よりもすごいのを見せてやるよ!」
「……いや……それはちょっと……」
「いいだろ」
そして新八と数馬は道場で居合を始めた。しかし結果は同じだった。新八は納刀した。そこで総司がやってきたので、新八は聞いた。
「なぁ、総司! どっちのほうがすごかった?」
「どっちもすごいですよ!」
新八は舌打ちした。
永倉新八は今度は近藤勇に居合を見せてほしいと頼み込んだ。そこで新八と勇は道場で居合を始めた。稽古を終えて新八が去ると、勇がやってきた。
「北添君! 今度は私と手合わせしてくれないか」
(困ったなぁ……)
と数馬は思い、勇に納刀を見せてから言った。
「近藤先生、この前も申したとおり、沖田先生にはかないません」
すると勇はムッとした表情を浮かべたので、数馬は慌てた。

また総司がやってきたので、数馬と永倉は道場で居合を始めた。納刀をする。
「おい! 総司! どっちのほうがすごかった?」
と新八が聞いたが、総司は首を振った。
「どっちもすごいですよ!」
新八はちょっと焦りを感じ始めていた。そして数馬を連れ出した。
「おい、北添! 今日は俺がお前を負かしてやるからな!」
(こりゃかなわんなぁ……)
と思いながらも、数馬は新八に納刀を見せた。そして新八は納刀した。そのとき一瞬の間があいたような気がしたが、気のせいだろうと数馬は思い直した。
そんなやりとりをして数日後、また新八がやってきた。
「今度はどうだ!」
(困ったなぁ……)
きりがないので、数馬は永倉新八に負けることにした。負けず嫌いなのは、永倉新八であった。

ちなみに数馬の納刀は、居合道と古武道の先生の折り紙付きである。

永倉新八