「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(53)北添数馬 外伝「剣道の稽古」

北添数馬は剣道の体験稽古に来た。「剣居一体」という。剣道と居合道の両方を修行することが理想とされる。数馬は剣道着に着替えて防具を身に付けると、最初に小手の着け方を教わった。竹刀を持って相手の面を打とうとしたときに小手が動くよう、手首をしっかりと締める。

最初の稽古は先生の動きを見て真似ることである。まず竹刀を正眼にして正面に構える。続いて、剣尖をやや下げて右足を引き腰を落とす。これが「平晴眼」である。先生はその姿勢のまま、ゆっくりと前進した。数馬は後退しながら竹刀を振り上げて迎撃する。それを先生が竹刀で受け流したかと思うと、あっという間に間合いに踏み込まれた。さらに「残心」と呼ばれる構えに戻るのだ。
次に自分の番が来たときは、思い切って攻めてみた。すると先生から、踏み込みが浅いと指摘された。先生の構えを真似て踏み込んでも、タイミングがずれていると簡単に防がれてしまう。

続いて、先生が「型」を見せた。「中段の構えから肩幅まで足を開き、剣尖をやや下げて正面に構える。そのまま竹刀の剣尖を相手に向けつつ前進し、間合いに入ったら右斜め前に踏み込みながら竹刀を左上方へ振り上げる。さらに相手に向かって剣を振り下ろす」というものである。
数馬は先生の動きを真似てやってみたが、途中でタイミングがずれてしまった。すると先生が手本を示してくれた。竹刀を正眼に構える。そこから右足を引いて剣尖をやや下げた後、相手を正面に捉えつつ前進し、間合いに入ったら左斜め前に踏み込んで剣を振り下ろす。竹刀が相手の面に当たる直前でピタリと止めると、相手に「残心」と呼ばれる構えに戻るのだ。

数馬は教わった技を何度も練習した。居合道では足捌きや抜き付けも重要視されるので、しっかり覚えなければならない。一体化した動きができることを目指すため、相手に攻め込んで竹刀で受ける稽古も行われる。
この日の稽古が終わると、数馬は満足そうな表情で着替えに行った。
先生が食事に誘ってくださった。剣道の神髄について数馬は聞いた。
「剣道では、防具をつけた相手に対して竹刀で打つことはあまりありません。その必要がないのです。もちろん、相手の竹刀が当たってケガをしないように防具をつけるわけですが」
「でも、相手を打ちのめすために稽古をするんでしょう?」
数馬は首をかしげた。「剣道には『武士道』がありますよね」と数馬は言う。
「はい。ただ、これは自分の心を高めるもので、実際に勝つためのものではないんです」
先生は語り始めた。「スポーツとして楽しむ剣道で『武士道』を貫くのは難しいことです。だから、競技である剣道の中で自分の心を高めるのです」
「相手の面を打つのではなく、自分を磨くことを目指すわけですね」と数馬。
「その通り。相手を打ち負かすことと、自分と向き合うことは別物なんです」
数馬は納得した。居合道の道場では、防具をつけた相手に打つ練習はほとんどしないが、それは相手を打ち負かすことではないからなのだ。剣道を体験したことで、剣の道の奥深さを知った。

イメージ