「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

沖田総司と木刀で稽古

北添数馬は新選組の屯所で刀の手入れをしていた。
そこへ沖田総司がやってきた。
「やあ、北添さん、ご苦労様です」
「おお、沖田先生。御加減はいかがですか?」
沖田は労咳(肺結核)を患っている。
「うん、だいぶ良いよ。で、ちょっと訊きたいんだが……」
「何でしょう?」
「北添さん、ちょっと腕に自信があるんだってね?」
「はぁ……?」
「いやさ、ちょっと木刀の相手をしてほしいんだよ。俺も最近は刀を振るう機会がなくてな……」
沖田は時々冗談めかしてこういうことを言う。
数馬はあわてて答えた。
「いえ、私のような者ではとても……恐れ多いです」
すると沖田は真面目な顔になり、こう言った。
「なあ、北添さん。俺はあんたには剣の才があると思うんだよ。それに新選組に骨を埋める覚悟でいるんだろ?」
沖田の言葉に数馬は心が動いた。
そして木刀を手に取ったのである……。

道場で二人の男が木刀を手に対峙している。
一人は北添数馬、そしてもう一人は新選組一の剣の使い手と言われる沖田総司である。
このところ二人は毎日、こうして稽古をしているのだ。
「北添さん、今日は俺が勝たせてもらうぜ」
沖田はそう言って笑う。
「いやいや、今日も私が勝ちますよ」
と数馬も負けていない。
この二人が本気で戦うと、とても稽古の域を超えている。
互いに一歩も譲らず打ち合ううちに、木刀が折れてしまった。
すると沖田は予備の木刀を持ってきて数馬に投げてよこした。
数馬はそれを受け取ると再び構えた。
「北添さん、いつでもかかってこい」
「はい!」
数馬は気合いと共に沖田に挑みかかるのだった……。
「北添さん、今日は私が勝ちますよ」
数馬は不敵な笑みを浮かべながら言った。
すると沖田はニヤリと笑って応じた。
「いや、今日も俺が勝つさ」
二人は木刀を構えると互いに打ちかかった。
数馬の繰り出す技を全て読みきっているかのように、沖田は全て防いでいる。
(やはり強い)そう思った瞬間、数馬は強烈な一撃を喰らった。
一瞬意識が飛びかけたが、何とかこらえることが出来た。
再び間合いを取り直したところで数馬は呼吸を整える。
「北添さん、だいぶ息が上がってるじゃないか」
と沖田は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった感じで言う。
「いや、まだまだですよ」
数馬はそう答えると再び構えた。そして今度は自分から仕掛けていったのである……。
二人の戦いはさらに激しさを増していき、ついに決着がつくのであった……。

「……よし、今日はここまでだな」
沖田はそう言うと木刀を引いた。数馬もそれにならって構えを解いた。
沖田は汗だくになって肩で息をしている。
一方の数馬は汗一つかかず涼しい顔をしていた。
「北添さん、また強くなったな」
沖田が感心したように言った。数馬もうなずいて答える。
「はい、私も日々精進しておりますゆえ……」
すると沖田は笑って言った。
「なあ、北添さん、あんたほどの剣の達人なら、きっと後世に名が残るぞ」
「いえ、そんな……」
数馬は謙遜しつつも少し嬉しかった。自分が褒められたような気分になったからだ。
「北添さん、あんたが新選組に居てくれて、良かったよ」
沖田はそう言って笑みを浮かべた。
数馬も笑顔で答える。
「はい、私もこうして新選組で活躍できたことは生涯の誇りです」
こうして二人はしばし語り合った後、稽古を終えた……。