「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(17)墓参のお供

口入屋の主人に仕事がないか聞いた。
「北添様、墓参のお供なるものがあります。いかがでしょう?」
「何ですかそれは?」
「これは女性(にょしょう)の依頼で、つまり用心棒です」
「なるほどな。何処へ行くのかな?」
「小石川の伝通院です」

ということで、まずはその女性宅へ行く。蔵前(くらまえ)の屋敷に住んでいる。
「口入屋の紹介で参りました、北添数馬です」
「桂木小夜(かつらぎさよ)と申します。伝通院の主人の墓へ参ります。ひとりでは不安なので依頼をしました」
「そうでしたか。では、参りましょう」
道すがら、尋ねてみる。
「ご主人は、ご病気で?」
「いえ、斬殺されたのです」
「犯人は捕まったのですか」
「いいえ、手がかりもなく…」
「そうですか…」

良い話ではないので、会話も途絶え気味だ。
それよりも人気のない道になってきた。方角は合っているのだが。

物陰から武士が二人、飛び出してきた。

「その女をよこせ! さもなくば命はないぞ」
一人が言う。
「何か知らんが、女を渡しても命をとるつもりだろ!」
「分かっているではないか!」

一人が袈裟懸けに切りかかってきた。数馬はそれを受け流し、水月を突き、突いた刀を引き抜いて、袈裟に斬った。
それを見たもうひとりの武士は逃げていった。

「桂木さん、お怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「桂木さんを狙っていたことは確かですが、何か心当たりはありますか?」
「いいえ、特に何も…」

伝通院の前に着いた。花屋で花を買い、仏具屋で線香を買った。
主人の墓に墓参する。墓石に水をかけ、花と線香を供える。花は枯れて無残な姿になるので、花は持ち帰ることにした。

さて、帰りである。
心配なのは、逃げた、もう一人の武士である。仲間を呼ばれるとまずい。数馬は不謹慎ながら、「ドラゴンクエスト」の戦闘シーンを思い出した。「スライムは仲間を呼んだ。四匹のスライムが現れた」とか。

しかし、それは本当だった。
やはり物陰から二人の武士が現れた。ひとりは、先ほど逃げた武士である。
数馬は殺気を充分に感じた。
二人の武士が斬りかかる前に、刀を横に薙ぎ、真っ向から切り下ろした。武士の一人は倒れた。
もう一人が斬りかかってきた。受け流し、喉を突いた。武士の口から大量の血が吐き出された。

居合は殺気を感じたときに抜き付けないとダメである。
「殺気」がきっかけである。相手が刀を抜いていなくても、それを感じたら即刻行動に移るのである。

女性はすっかり怯えてしまっているが、蔵前の自宅まで無事にお送りした。
何か仔細がありそうであったが、それは聞かなかった。それは仕事でないからである。

※伝通院:東京都文京区小石川3-14-6

伝通院