「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

(21)餅つき

北添道場では新年になったら「餅つき」をやる。そして頑張った門弟を一人選んで、刀の手入れ用具を授与する。
餅つきの道具は数馬が古道具屋で購入した。あらかじめ門弟たちには各自一合の餅米を持ってきてもらい、数馬が準備する。そして、門弟たちに餅をついてもらうのだ。

北添道場の恒例行事は、この餅つきだけである。あとは門弟の思い付きで、物見遊山に出掛けることがある。

さて、もち米が蒸しあがり、門弟も揃った。臼に餅米を入れて、門弟が、「よいしょ! よいしょ!」と声をかけて杵でつく。「合いの手」は数馬がやる。いろんな人物が手を入れるのはあまり良くないだろうから。
年に一度だが、門弟たちとの共同作業を数馬は大切にしている。
暑気払いや忘年会もいいが、酒が飲めない者は楽しさが半減してしまうし、職場でもやるだろうから、それと重なるのも良くない。

「よいしょ! よいしょ!」とみんなで声を合わせて、餅をついていく。適度な回数で、門弟同士で交代する。
「よーし、ついた!」と数馬が臼から杵を抜き取り、餅を持ち上げた。もち米のいい匂いがあたりに充満している。
「これを丸めて、餅にするぞ!」と数馬が言う。
餅を丸める作業も門弟たちが手伝う。丸めた餅は道場の台所に運ばれていく。
つきたての餅を数馬が一つ食べた。熱くて柔らかい。神棚にも忘れずに。
門弟たちも餅を食べる。あんこやきな粉はお好みで。

「先生。この餅、美味しいです!」と門弟が言ってくれた。
「そうか! 良かった」と数馬も喜ぶ。
「先生。この餅、つきたては格別です」と別の門弟が言ってくれた。
数馬も餅を食べ、茶を飲んだ。
「うん。美味い!」と数馬も思う。
そして、門弟たちと一緒に笑う。
「そうそう。この餅を食い終わったら、道場の掃除もしてもらうからな」と数馬が言った。
「えーっ!? 今からですか?」と門弟たちが驚く。
「そうだ! 新年だからな! もちろん私もやるが」と数馬が言い、「はい!」という門弟たちの元気な声が道場に響いたのだった。

「掃除の前に、“頑張り賞”の授与です。今回は遠藤新平さん! 昨年はよく頑張りました。よって、刀の手入れ用具を授与します。みなさん拍手!」

数馬と門弟たちが拍手する。
じつは、この“頑張り賞”、毎年違う門弟に授与している。ということは、数年で全員が貰える、という仕掛けになっている。刀に塗る丁子油(ちょうじあぶら)はそんなに減らない。ぽんぽん(打ち粉)も、毎回使うわけではない(砥石の粉なので半年に一度が良い)。なので、毎年同じ門弟に授与すると、かえって顰蹙(ひんしゅく)かもしれない、と、数馬は思っている。

 

餅つき