「数馬居合伝2」

北添数馬と申します。令和から江戸時代に行ってしまい、居合で江戸時代を生きていく物語です。

2024-01-01から1年間の記事一覧

(29)御小人目付の苦悩

今年もお盆がやってきた。といっても、数馬は帰る故郷が令和であるし、お盆だからといって、特に何があるわけではない。ということで、道場で稽古をしている。門弟の御小人目付(おこびとめつけ)の真鍋平九郎が道場にやってきた。彼にもお盆はないようであ…

(28)鶴見の同心組屋敷

北添数馬は、鶴見源之丞の同心組屋敷に遊びに行った。いちど来てくださいと誘われていた。八丁堀である。鶴見の屋敷を訪ねると、「やあやあ、どうも、北添さん」と、鶴見が出てきた。鶴見の部屋は、読書が趣味だと言っていたとおり、本が多い。読み散らかし…

(27)捕り物

同心の鶴見源之丞が、北添数馬の長屋へ慌ててやってきた。「捕り物があります。ぜひ体験してください」「そんなの、体験できるの?」「お奉行の許可をもらっていますから。一時(いっとき・二時間)ほど経ったら奉行所に来てください」 南町奉行所に出向く。…

(26)秩父の十臓一味

北添数馬は秩父(ちちぶ)に所用があって出かけた。帰りに正丸(しょうまる)峠にさしかかると…「そこのけ! そこなお人!」と、声をかけながら駕籠や馬上の武士たちが数馬の前を駆け抜けて行く。「何事じゃ?」数馬は、思わず道端へ寄った。「御用だッ」飛…

(25)西新井大師と草加せんべい

北添道場の門弟が、「西新井(にしあらい)大師に詣でて、草加(そうか)せんべいを食べませんか」と、提案してきた。数馬にとってはとても懐かしい。まだ幼稚園の頃、西新井の団地に住んでいたのだ。休日になると、父が西新井大師に連れていってくれた。 今…

(24)二人とも暇です。

かごめ かごめかごのなかのとりはいついつでやるよあけのばんにつるとかめがすべったうしろのしょうめんだーれ 北添数馬が長屋で金魚鉢を眺めていると、外で遊んでいる子供たちが歌うのが聞こえてくる。いつも同じなので、歌詞を覚えた。「いついつでやる」…

(23)安政遠足(あんせいとおあし)

北添道場の門弟が、これは鍛錬になると、情報を持ってきた。上州の安中(あんなか)藩がやっている、「安政遠足」である。“遠足”とは、「とおあし」と読み、令和で言う「マラソン」のことである。 「この遠足(とおあし)は安中藩士がやるんじゃないの?」「…

(22)愛宕神社の石段

北添道場の門弟から提案があった。「愛宕(あたご)神社の石段を上りませんか。足腰の鍛錬になると思います」 というわけで、門弟の参加者は半分だが、出かけることにした。愛宕神社は「桜田門外の変」で水戸浪士らが集結した場所である。愛宕山の山頂にある…

(21)餅つき

北添道場では新年になったら「餅つき」をやる。そして頑張った門弟を一人選んで、刀の手入れ用具を授与する。餅つきの道具は数馬が古道具屋で購入した。あらかじめ門弟たちには各自一合の餅米を持ってきてもらい、数馬が準備する。そして、門弟たちに餅をつ…

(20)鶴見源之丞の恋

同心の鶴見源之丞。独身である。数馬は令和に妻子がいるが、江戸時代では独身みたいなものである。その鶴見が数馬に、 「女が喜びそうなものは何でしょうね」 と聞いてきた。どうやら彼女がいるようだ。 「簪(かんざし)を差し上げるというのはいかがでしょ…

(19)「暇乞(いとまごい)」

同心の鶴見源之丞が遊びに来た。数馬が飼っている金魚が気に入ったらしく、エサを与えていいか、聞く。きょうはまだ与えていないので、「いいですよ」と答え、鶴見にエサを渡す。エサを与えると、金魚やタナゴ、クチボソが寄ってくる。テナガエビだけ、面白…

(18)犬の散歩

口入屋の紹介で、犬の散歩である。北添数馬は大の犬嫌いである。それは犬にも伝わるようで、よく吠えられる。鉄道紀行作家の故・宮脇俊三氏もそうである。もちろん、犬の散歩など、やったことがない。 預かった犬は、秋田犬の仔犬である。仔犬だから元気がい…

(17)墓参のお供

口入屋の主人に仕事がないか聞いた。「北添様、墓参のお供なるものがあります。いかがでしょう?」「何ですかそれは?」「これは女性(にょしょう)の依頼で、つまり用心棒です」「なるほどな。何処へ行くのかな?」「小石川の伝通院です」 ということで、ま…

(16)金魚になりたい

北添数馬は淡水魚が好きである。いま、金魚を飼っている。金魚だけでは寂しいので、ちょっと離れたところにある沼で釣りをすることにした。クチボソ・タナゴ・テナガエビ・ニホンザリガニ、などなど。ザリガニは体が大きいので、放した。 さて、クチボソ・タ…

(15)向日葵(ひまわり)と赤トンボ

北添道場の中庭には向日葵が咲いている。数馬が毎日、井戸から水を汲んできて、向日葵に水をやっている。向日葵に水を与えたあと、数馬は正座をして刀の手入れを始めた。ぽんぽん(打ち粉)を使って紙で拭い、丁子油をすーっと塗っていく。刀身をごしごしや…

(14)ものもらい

今年も暑い夏がやってきた。令和では当たり前のように35℃以上の「猛暑日」が連続するが、江戸時代、猛暑日というのは珍しかった。ただ、暑いことには変わりなく、すだれと打ち水が効果的であった。あと風鈴。 北添道場も暑い。武道館にあるような巨大扇風…

(13)道場破り

北添道場で居合の稽古をしていると……「師範はおらぬか。拙者、井上源左衛門。師範と立ち会いたい!」と、玄関から声がする。こういった場合、ちょっと金子(きんす)を包んで、お引き取り願う。浪人もそれを狙っている。お小遣い稼ぎだ。「この道場の師範の…

(12)お白州

人材派遣会社の使い方であるが… 持てる経験、技術は全て伝えること。そして担当者には丁寧に接することだ。仕事をくれないからといって凄んではいけない。そういう人物は派遣して問題ないか、担当者にも分かるだろう。「いま、別の方と話が進んでおりまして…

(11)赤穂浪士の縁者

北添数馬は赤穂浪士が大好きだ。いやいや、悪いのは浅野内匠頭で、吉良上野介は被害者じゃないかと思うが、やっぱり赤穂浪士が好きである。 泉岳寺へひとりで行った。道場の門弟たちと師走の十四日に行ったことがあるが、大混雑していて、あまり落ち着かなか…

予定です。

予定です。日曜日より「(11)赤穂浪士の縁者」から再開します。「★」は、UP済みなのですが、編集の都合で、もう一度アップします(すみません)。どうぞ宜しくお願いします。 北添数馬 ※予定です。話数は増えるかもしれません。 (1)山岡鉄舟に居合を教わる(2)…

休載のおしらせ

読者のみなさま、ご愛読ありがとうございます。 原稿の調整のため、1週間ほどお休みを致します。 北添数馬

(10)スイカと天ぷら

スイカと天ぷらは食べ合わせが悪いことで有名だ。北添数馬は高校生のとき、かき揚げ丼を食べた後にスイカを食べて、猛烈に腹を壊した。 北添道場の門弟がスイカを持ってきてくれた。みんなで食べようということになり、三個貰っているのだが、とりあえず一個…

(メインキャラクターの紹介)

■北添数馬(きたぞえかずま)■主人公。妻子がいる。令和の時代からタイムスリップしてきた。全日本剣道連盟所属、夢想神伝流。居合道三段。江戸で居合を教える「北添道場」を主宰している。やや門弟たちに振り回され気味。 ■鶴見源之丞(つるみげんのじょう…

(9)泉岳寺へ

北添数馬は、北添道場という、居合を教える道場をやっている。こぢんまりとした、ささやかな道場である。趣味でやっているので、月謝はとらない。ときおり門弟から差し入れがある。それは遠慮なく受け取ることにしているが… 師走……門弟から提案があった。「…

(8)大けがと労咳

“同心体験”で世話になっている、鶴見源之丞から、居合を見せて欲しいと言われた。鶴見が住んでいる八丁堀の同心組屋敷に行った。部屋の中なので、全剣連居合の座り技、四本をやることにした。「柄当て」という技をやったときである。後ろの敵の水月を突くの…

(7)銭形平次の子分

銭形平次といえば「岡っ引のアイドル」である。その子分は八五郎。その八五郎が足を骨折してしまい、当分、動けないとのこと。“同心体験”で世話になっている、鶴見源之丞から、「銭形平次の子分をやってみませんか?」と打診があった。岡っ引の子分を「下っ…

(6)女湯の刀掛け

八丁堀(同心が住んでいる)の七不思議のひとつに「女湯の刀掛け」がある。朝方、混雑する男湯の代わりに、与力・同心は女湯に入ることができた。南町奉行所の同心体験で世話になった、鶴見源之丞から、「女湯に入ってみませんか?」と、お誘いがあった。北…

(5)二本差しが怖くて田楽が食えるか!!

「二本差しが怖くて田楽が食えるか!」 北添数馬に向かって、町人が啖呵を切った。二本差しとは侍のことである。間の悪いことに、数馬は小料理屋で田楽を食べていた。この「啖呵」は、何も田楽を食べているときに使うわけではない。「二本差しが怖くて 田楽が…

(4)職業体験 「同心」

南町奉行所で「同心」の体験ができるというので、申し込んだ。町奉行は行政・司法など、守備範囲が広い。北町奉行所もあり、「月番」といって、ひと月交代で業務にあたった。 南町奉行所の門前で「体験を申し込んだ北添数馬です」と告げると、ひとりの同心を…

(3)高杉晋作の企み

北添数馬は、長屋で朝顔に水をやっていた。朝顔の世話をひととおり終えると、刀の手入れを始めた。そこへ高杉晋作がやってきた。「北添さん。おじゃまする」「高杉さん。ちょっと待ってください。いま、ちょうど刀の手入れをしてるところですから」刀の刃に…